それは山里にある洋品店だった

朝、早々に車で出発した。
目指すは白鳥町石徹白にある「石徹白洋品店」。
美濃も田舎だが、ここからさらに北上した石徹白は完璧な田舎だ。
何を持って完璧なのかと言えば、圧倒的な緑の量と人口密度。
車で1時間半。晴れた、曇った、雨降った。一分おきに変わり続ける山の天気に翻弄されながら、山を越えていく。
一応、ナビは入れてある。だから、道は合っているはずだった。けど、不安になる。それぐらいの山道を走っていた。こんな所に、ほんとうに洋品店などあるのか。



あった。



注意して見ていないと通り過ぎてしまいそうだった。

この洋品店の存在は、大地君から聞いて無茶苦茶気になっていた。
石徹白で採れた草木から染料を作り、石徹白に伝わる伝統的な衣服「たつけ」をベースにした服作りをしている。「たつけ」とは農作業着だ。石徹白の人しか知らない作り方の服を、石徹白のものを使い、石徹白で作る。それを求めて全国からこの山里へ買いに来るという。

前に誰かが言っていた。服とは最終的に生地である、と。

お店に入る。一階と二階の二つのフロアー。

明るい店内には、色んな「たつけ」シリーズが並んでいる。

安くはない。一つ一つに手間が掛かる分、高い。

ドット柄のワンピースやたつけが並ぶ「ドットの服展」の最終日でもあった。
僕も藍染のたつけを購入し、裾直しを待つ。裾を直すのは、地元のおばちゃんだった。たった今、法事が終わって駆け付けて来たらしい。法事が押していれば、僕のたつけは後日郵送になっていた。
15分くらい待ち時間があったので、その間、洋品店の代表の方に色々と話を聞いた。染めている場所などを見学させてもらった。

人は服に魅了される。なぜだ?その問いに対する答えを探していた。服は、服の作り方、生産の仕方も千差万別。求めなければ、選ばなければ、服なんてどこにでも売っている。もっと安くて、もっと近くで、もっと色が選べる服なんか、いくらでもある。それでも、遠方からいくつも山を越えて、ここにやってくる人がいる。

服とはなんだろうか。服とは。服とは。

ここへ来る人は、物語を着たいのかもしれない、と言ってしまうには乱暴か。でも、魅力を説明する時、僕らはいつだって物語に立ち返らざるを得ない。物語がないものはつまらないのだろうか。じゃあ、なぜ物語を探し続けているのか。問いは、次の問いを生み続ける。なんてこった。


石徹白洋品店
FURUTAMARU.梟の服