蜷川さんのこと

稽古中に蜷川さんの訃報を知った。
稽古が終わって、自転車での帰り道。環状八号線を自転車で帰りながら、稽古の反省をするはずが、自然と蜷川さんのことを色々と思い出しながら帰っていた。


最初は確か、上京したばかりの大学1年生の冬。シアターコクーンで蜷川さん演出の『四谷怪談』を見た。後にも先にも、自分でお金を払って2回同じ舞台を観たのはあれしかない。


まもなくして東京で出来た友人が桐朋学園で演劇を学んでいた。試演会を観に行くと、学長だった蜷川さんが観客席の左前に座っていた。お客さんも入っている。試演会の本番が始まり途中まで進んだ所で、急に芝居が止められた。蜷川さんが本番を止めた。ダメ出しが始まった。後にも先にも、目の前で本番が止められてダメ出しが始まったのはあれしかない。


25歳の頃、TBSラジオで構成作家の仕事をしていた。古田新太さんの番組『ふるちん』の構成をやっていた時、確か最終回のゲストが蜷川さんだった。目と鼻の先で、古田新太さんと蜷川さんのつばぜり合いのようなトークが繰り広げられた。蜷川さんは当時すでに70歳だった。後にも先にも、あんなにエネルギッシュに喋られる70歳を見たことがない。


その直後、蜷川さんが演出した『藪原検校』を観に行った。ムチャクチャ面白くて、しばらく藪原ショックの中で生きていた。井上ひさしさんの戯曲も買い、DVDも持っている。度々見返す演劇のDVDは、後にも先にも、あの一本しかない。今日、久しぶりに観ようと思う。