5年前と5年後

先日のことだけど、昔、住んでいた狛江に行った。
昔って言っても、そんな昔じゃない。
24歳から27歳までの3年半。
駅前に、イタリア食堂っていう美味いイタリアンが食える店があって、当時はたまに食いに行っていた。
その店に、かれこれ5年ぶりぐらいに行ってみた。
そしたら、あの頃と同じホールの人が働いていて、僕は彼のことがすぐに分かり、でも、言わずして、パスタやピッツアを注文して食っていた。
食い終わる頃、その彼が近付いて来て、


「前に来てくれたことありますよね?」


と、一言。


「そうっすね。5年くらいまえに、確か」


努めてクールに返したら、


「自分がまだ音楽をやっていた頃ですね」


という言葉が、さらっと返って来た。
想いのほか、その言葉に「ズン」という重さを感じてしまった。
「自分がまだ音楽をやっていた頃ですね」
そのフレーズが、聞いた側から何度もリフレインして、耳から離れず。


そうだ、思い出した。彼は音楽をやっていたのだ。
バンド活動の傍ら、この店でバイトをしていたのだ。
僕は、彼のバンドのCDをもらったこともあった。
そうか、そうだった。


しかし、もうやってない。
彼は、音楽を、バンドをやってない。
聞くまで忘れていたくせに、CDもなくしてしまったくせに、なんかやるせなかった。
数日経った今でもやるせないんだから、なんかね。
よっぽどだったんだと思う。