あなどるな!

少し前に築地で回転寿司を食ったことがあった。
なぜか、その日のことを思い出したので記述することにしよう。


そこは回転寿司と言えど、築地場外市場にあるので、もちろんネタが新鮮で美味い。
あなどれない味であった。
しかし、本当に衝撃的だったのは、寿司ではない。


客がカウンターテーブルに座ると、お茶を運んでくるバイトのおばさんたちがいた。
板前さんたちに怒鳴られたりしているけど、皆さんがんばっていた。
この店の方針だろう。
おばさんたちが胸元につけた名前プレートには「名前」の他に「出身地」と「趣味」が記載されていたのだ。

「佐藤 東京都 読書」

こんな感じだ。
おそらく、お客さんとのコミュニケーションを増やすためのきっかけ作りだろう。
これが実に面白く、おばさんが目の前を通る度に気になってしょうがない。
僕はおばさんの胸元ばかりを見ていた。
「出身」と「趣味」というのは、それほど裏切りがなかった。
やはり、歩んできた人生(ドラマ)は、顔や体に具現化されているんだなぁとしみじみ思った。


が、


僕の元に海苔汁を運んできたおばさんがいた。
長い髪を後ろで縛り、冴えないメガネをかけて、ぼやぼやしている雰囲気だった。
後方から板前さんに叱られている声も聞こえた。
震えるような手つきで、海苔汁をテーブルにリリースした。
その瞬間、僕は胸元を見た。


「高橋 広島県 少林寺拳法


…広島、しょ…少林寺拳法

そこには、浅はかな予想を全て裏切るような壮大なドラマがあった。
特技に武道を書く人は聞いたことがあるが、趣味ということは「楽しみ」というわけだ。
楽しみが少林寺拳法という生活とは、どんな生活なんだろう。全く見えない。
あなどれない。


あなどれない人は面白い。