有名人と会った衝撃

それは衝撃だった。


雨の止んだ昼頃、経堂の駅前にある本屋に原付バイクで向かった。
店先の小さな駐輪スペースにバイクを停めて、本を物色して帰ってくると、そこに僕の原付バイクはあった。
当たり前だ。僕の原付バイクは勝手にどこかへ行ったりしない。
原付バイクに鍵を挿して、「さて帰ろうか」という姿勢を見せた瞬間、僕の後ろに「ヌーーーー」っという感じで巨漢の男が自転車をひいて現れた。
どうやら、僕が原付バイクを動かしたスペースに自転車を置きたがっている様子。
しっかりと顔を見るつもりはなかったが、その男があまりにも巨漢で、どこか得体の知れない雰囲気を発していたので、振り返ってしまった。
しばらくその男の顔を見て、僕は動きが止まった。


ものすごく知ってる。
誰だろう。
どこかで見たことある。
僕が大好きな、誰だっけ。
あっ・・・


男と見つめ合っていた時間は、3秒ぐらいだったと思う。


僕が空けたスペースに、その男は自転車を停めて、歩き出した。
男は、すぐに後ろ姿になった。
その山のような後ろ姿で、僕は完全に理解した。



それは、あの伝説の少年、落合ふくし君であった。

言わずと知れた落合監督の息子である。

大学3年生の頃、ニューヨークでウディ・アレンに会った時以来の衝撃が走った。
「ふくし君に会った。ふくし君に会った。」
僕は何度もその事実を噛み締めてバイクのスピードを上げた。