予定調和ぶち壊れる

小笠原に来てから、毎朝まるでパトロールでもするかのように浜辺を散策している。娘に丸い石を拾って持って帰るという約束をしたためだ。丸い石など、簡単にないよ。

次第に太陽が登り、うだるような暑さがやってくる。見晴らしの良い高台はいくつかあるが、どこもおしなべて暑い。そりゃ、そうだ。軽い散歩のつもりが、汗だくで宿に戻ることになる。こんなはずじゃなかった。けど、いつもそうなる。

島に一つの郵便局。島には番地というものが存在してないし、郵便局員は島民2000人の名前をだいたい把握しているらしい。「小笠原村父島◯◯様」という名前だけで届くこともあるという。

忘れそうになるが、ここは東京都だ。もちろん、都議選がある。けど、短いメインストリートでは誰も選挙活動してない。

原付バイクを借りて島全体を端から端まで移動する。山があり、トンネルで抜けて、ビーチに出る。これが繰り返される。そもそも原付バイクに乗るのは、都内ですっ転んで事故をした7年前以来。事故を思い出したのではなく、もっと前だ、大学3年生の頃に同じく一人旅で向かった屋久島だった。あの時もこうして同じように原付バイクでトンネルをくぐり、見つけたビーチで泳いだりした。あの頃はいったい何を考えながら旅していたのか。将来のことか、女の子のことか、たぶん今とは違っていた。

山に入ると、地面に目が行く。背の高い木々の間から自然光が差し込んでいて、地面にいくつもサスができていた。自然サス。こんな形で演劇と小笠原がリンクするとは。

太平洋が一望できるウエザーステーションで夕焼けが沈むのを見る。落ちるまで1時間くらい見守っていたが、汗だくになりながら、もう旅の終わりが近いことを意識する。

夜、ナイトツアーに連れ出してもらう。ツアーといっても1対1。真っ暗な山でオガサワラコウモリや浜辺で産卵するウミガメを見る。夜の島は冷や汗が出るくらいに怖い。怖いのは海だけじゃなかったようだ。いくつのも予定調和がどんどん壊れていった。興奮。