嗚呼、メロンパン
自転車を漕いでいた。
雨が降ってきたので傘を差していた。
左手には、昼に買った大切なメロンパンがビニール袋に入ったものを、大事にしっかりと握っていた。
僕は急いでいた。
高井戸で稽古場のお金を払い、急いで稽古場へと向かっていたときに惨劇が起きた。
細い歩道を抜けようとした瞬間、前方から、おばさんが自転車で向かってきた。
細い道と言えば、おばさんの天敵だったはず。自転車を降りて歩いて待っているかと思いきや、自転車に乗ったまま突っ込んで来やがった。
マジかよ。
細い道ですれ違うことになり、僕は傘を差したまま突っ込んでいった。
左側だった。
左の壁が有刺鉄線だった。
まず僕の傘が持って行かれた。
次に、命よりも大事なメロンパンの入った袋がズタズタになった。
気付いたら、袋の中にメロンパンはなかった。
ビリビリの袋から落ちて、地面に転がっていた。
雨がしとしと降っていた。
抱きしめるように拾い一心不乱に食べた。
危ない人間に見られていた可能性がある。
が、知ったこっちゃない。
あんな状況で食ったメロンパンは2割増で美味い。