どこにもない鍵

野暮用でカバンを変えて家を出たら、事務所のドア前でカギを忘れたことに気がついた。
事務所のカギはいつも使っているグレゴリーバッグの中だ。
ありがちなミスだ。あるあるミスだ。
けど事態はそんな軽いもんじゃない。


絶望感が、


半端なく押し寄せてきた。


外は雨が降っていたし、僕だけが下北沢の街に取り残されたような錯覚。
手には昼に食おうと思っていたパンとスルメとジュース。
これをどこで食えと言うのだ。
家に帰るのは無性にくやしいから帰りたくない。
日韓ワールドカップでドイツ代表だったゴールキーパーのカーンが試合終了のホイッスルを聞いた時の虚ろな表情。
ゴールポストに背を合わせて遠くを見ている目。
僕はあの時のカーンと全く同じ目をしていたんじゃないか。


結局は大家さんに鍵を借りるという手段で事なきを得たが、
久しぶりの茫然自失を味わったので僕はひとつ強くなれたはず。



そんなこんなで、事務所で次回公演の台本をやってました。
進んだようで進んでないようで進んだのか。
自分の中で色々と確認しながら書いていると飛躍的に進んだりしない。
けど、昨晩の深夜、チラシに載せる情報を吟味していた時、
ようやく今回の芝居の出口というか、この芝居のトンネルが見えた気がした。
ここから勝負でしょうね、僕は。


腹筋は続いている。