法廷で会おう

ぼくの身辺で起きた「とある事件」により、立川裁判所から封書が届いたのは、数日前のこと。
そこには「あなたを5000円の過料に処する」と仰々しく書かれていた。
そして、文面を最後まで読むと、不服の場合は一週間以内に異議申立ができるという。
当然、僕は5000円という金額にも納得できず、そして、何より払いたくないという「DONT WANT PAY」の精神により、異議申立をすることにした。


立川裁判所に電話を掛けた。
ナメられてはいけない。
まずは、先制パンチを繰り出さなければと半ば強迫観念のように思い、


「なんか書面届いたんすけど、異議申立したいんすが!」


と、普段全く使わないような口調で一気にまくし立てた。


「すみません。どちらさまですか?」


丁寧な女性の言葉が返ってきた。
どうやら僕は、ぜんぜん怒りの矛先を向けるべきではない人に噛み付こうとしていたようだった。
僕は襟を正し、自分の事件番号を述べた。


「○○○号です」
「少々お待ちください」


女性に代わって電話口に出てきたのは、男だった。
僕は、再びナメられてはいけないと思い、開口一番「異議申立だ! 異議申立だ!」を連発したが、またしてもその男の物腰の柔らかさに手篭めにされていった。
いつの間にか、僕は素直になっていて「意義申立をさせていただきたいのですが、どうしたらよろしいのでしょうか?」という丁寧口調に。自分に反吐が出た。


男性職員の説明によれば、僕の不服とする理由では異議申立をした所で、結局、刑は覆らないだろうということだった。これには腹が立った。僕は抵抗したくなった。僕は相手から「無理でしょう」と断定されることがイチバン嫌いだからだ。なんとかして抵抗したい。


「…ふ、ふざけるな! ぼくは、そんなの嫌だ!」


悔しいことに、論理的な反論が全くできなかった。法律の専門家を前に、ほとんど小学生並の「理由」をわりと大きな声で述べるのみ。どんどんどんどん自分の形勢が危うくなっていくので、僕は吐き捨てるように言った。


「とにかく、異議申立するからな!」
「…はい、わかりました」


そこで、気付く。異議申立書ってどうやって書くんだろうか…。もちろん書いたことがないので分からない。


「…お、おい! 意義申立書って、…ど、どうやって書くんだよ!」


聞くしかなかった。
怒りながらも、敵であるはずの相手に書き方を教わるというパラドックス


「じゃあ、これから、雛形の文句を言いますので、書き取ってください」
「…わ、わかった。ゆっくりな!」


僕は異議申立書の書き方を教わり、電話を切った。


仕事のこと、フルタ丸のこと、やらなくちゃいけないことが山積していたはずなのに、異議申立書を作成し始めた。
何度も「ぼくは、今、何をしているのだろう…」という虚無感に襲われたが、なんとか異議申立書が完成した。

女子高生が使いそうな小さい封筒しかなかったのでそれに入れた。異議申立書は八つ折にせざるを得ず、おりがみで作る手裏剣みたいなサイズになってしまった。その異議申立書には、威厳のかけらもなかった。


「法廷で会おう」


誰にでもなく、そう呟いた。