犬の散歩

フルタ丸の事務所を作ったのと時を同じくして、僕は彼女の家に居候させてもらっている。
その部屋では、前にも書いたかもしれないが、ジョンという黒マメシバを飼っている。
まだ5ヶ月の小さい犬だ。
そのジョンの朝散歩が、僕の仕事だ。与えられている唯一の仕事だと言ってもいい。
だから、がんばっている。いや、ジョンとの散歩は楽しい。


もう死んでしまい2年が経つが、岐阜の実家でも柴犬を飼っていた。
「銀」という犬だった。
やはり、毎朝、銀の散歩に行くのが僕の仕事だった。
同じ柴犬だということもあって、ジョンと散歩していると銀とのことを思い出すことがある。
僕の前を歩くその後姿が似ているのだ。
一歩踏み出すと、ジョンが走り出し、銀も走り出す。次の一歩で27歳の僕は26歳になる。そして、次の一歩で25歳になっている。気付けば、僕は14歳だ。散歩にはタイムマシーンの要素がある。


季節はこれからどんどん寒くなっていく。
けど、僕は寒い朝の散歩が好きだった。
自動販売機で「あったか〜い」のコーンスープを買って、それをポケットに入れて歩く。
あれが好きだったんだよ。ちゃんと覚えているもんだ。