短編小説 「復讐いただきます」 (文・フルタジュン)


「実は、私、太っていたんですよ」


食リポーターとして活躍する、山本かすみ(32)が、
成人になるまで太っていたことはあまり知られていない。


「給食番長」「ダイソン」「でぶ」


順に、小学校、中学校、高校時代のあだ名だという。
その遍歴からも推測できるように、中学時代までは大食いであることをネタにもできた。
しかし、女子校だった高校時代はひどいものだった。
かすみが一人で弁当を食べていると、心ないクラスメイトが周りを取り囲んだ。


「ほんとブタみたいに食べるよね」
「くちびるテカってるよ、きもちわるっ」


中でも、リーダー格だった筧三津子は、執拗にかすみをイジメ続けた。
ある時から、かすみの弁当箱が隠されるようになり(だいたいはゴミ箱の中で見つかった)、かすみの机に彫刻刀でイタズラ彫りが増え(「死ねよ、でぶ」と彫られていた)、その全ての陣頭指揮を三津子が執っていた。


イジメの事実を親にも相談できなかった彼女は、食に逃げた。
いや、食だけが彼女の味方だったのかもしれない。
彼女は食べた。家族が心配するぐらい食べ続けた。
そして、太っていった。


「食べ物が世界を変える。FOOD CHANGE THE WORLD.」


彼女が泣きながら卒業文集に書いた言葉だ。


卒業後のかすみは、目的もないまま専門学校へと進み、流されるようにしてOLになった。
その頃には、ほとんど今の体形になっていたという。
「わがままボディ」から「愛されボディ」への変化の転機は、恋だった。
得意先に好きな人が出来た彼女は、まず週6だった深夜のラーメンを止めて、毎朝のドーナツ摂取量を7個から2個に減らした。
さらに、オーガニック食材を使った料理にハマった。
健康的な食生活は、見る見るうちに彼女から余分な脂肪を吸い去って行った。


痩せた彼女は美しくなり、見違えるほどに色っぽくもなった。
興味のなかったファッションやコスメにも自然と興味が湧いてきた。


意中だった得意先の男性に告白するより先に、
合コンで知り合った3つ上の商社マンに口説かれた。
男性に愛される喜びを手に入れた彼女は、その後も、色んな男性との付き合いを楽しんだ。


華々しい20代を謳歌していた彼女が、立ち止まったのは28歳の冬。
自分は本当にこのままでいいのだろうか。
このまま年を重ねて、普通に結婚する人生で本当に満足なのか。
そんな時だった。
付けたままにしていたテレビから、男性の食リポーターの声が聞こえて来た。


「豚カツ、丼ぶりからハミ出してますよっ!店長、いいんすか、コレ!
このカツ丼、量はね、文句なしですよ。でもね、問題は味ですよ。
量が多いとね、だいたい大味になるんです。
食べてみたいと思います。……んまっ! 量も味も文武両道!」


リポーターのいつもの決めゼリフに、スタジオが笑いで湧き返る。
かすみは泣いていた。


「…これだ。わたし、これだ。」


かすみはOLを辞め、食リポーターへの転職活動を始めた。
休日には、ミシュランを片手に日本各地の名店をいくつも周り、自分なりの食コメントを考える癖を付けた。
彼女の美貌と食への探究心は、業界に少しずつ認知され、小さな仕事を一生懸命こなす内に、テレビの仕事が徐々に増えて行った。


そんなある日、彼女の元に生中継の食リポーター仕事が舞い込んで来た。
中継するのは、若手パティシエが営む人気のスイーツ店だという。かすみは、いつものように、事前にネットでお店の下調べに余念がない。
オーガニックな食材にこだわる点も、若い女性に人気を得ている理由らしかった。
お店のホームページに、見覚えのある名前を見つけた時、彼女は息を止めた。
そして、静かに嗤った。


パティシエ 筧三津子。


「いただきまぁす」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「オモテ面」はここまで。

この後、すべての真相が明らかとなる「ウラ面」を

安堂サオリさんの一人芝居として上演!


スーパーフルタフレーム vol.1 『嘘は、検索できません。』

2014年12月25日(木)〜28日(日)@下北沢B1

http://www.sff.tokyo/